ソーラーシェアリング
「ソーラーシェアリング」とは、農地の上に架台と太陽光パネルを設置して行う営農型太陽光発電です。
一定の間隔をあけて日照を確保するなど、営農への影響を極力小さくしつつ農業と自家発電事業を両立する方法でこれからの日本の農業を変えるビジネスとして注目を集めています。
ソーラーシェアリングのメリット
残念ながら現在、農業から得られる収入は非常に低い水準にとどまっています。
そのため、会社勤めと農業を両方行う兼業農家でなければ生活できなかったり、年金暮らしの高齢者でなければ農業を続けられないという異常な事態に陥っており、農業危機が叫ばれて久しい状況になっています。
ソーラーシェアリングはこのような危機的状況を打破する一手になる可能性があります。
ソーラーシェアリングを行うことで、農業収入に加えて売電収入を得られるようになるため、農家の収入を大きく増やせる可能性があります。
例えば、ソーラーシェアリングを1反の広さで導入した場合、約45kWの太陽光発電が設置でき、平成30年度(2018年度)の売電単価18円/kWhで計算すると、年間88.0ほどの現金収入につながる可能性があります。
農家の収入が増えることで、後継者問題の解決や、食糧自給率の低下に歯止めをかけることができる可能性があります。これが、ソーラーシェアリングにおけるもっとも大きなメリットだと言えます。
モデルケース
若者へ向けた新たな農業スタイルの提案
<概要>
- 事業実施主体:G農園 (千葉県いすみ市)
- 発 電 設 備:営農型発電 発電出力 49.5kW、発電電力量 5万3千kWh/年
- 発電設備下の農地:10a (ブルーベリーを栽培)
- 建 設 費:約1,500万円(パネル代795万円、架台工事費 300万円、架台代240万円、その他165万円)
- 運転開始時期:平成27年3月
<特徴>
- 移住者からの「地域資源を活かした太陽光発電に取り組まないのはもった いない」との助言がきっかけ。営農型太陽光発電によって収入が安定化し、安心して農業を継続できると考えて取組を開始。
- 5種類のブルーベリーやイチジクの栽培をしながら、農家民宿や観光農園 を経営。発電設備の下部(10a)のブルーベリーは、平均糖度15度以上 (通常、12-13度で良品)、直径平均18mmの粒を揃え、色目もよく 高評価。
- 発電設備の設置、運営は株式会社Iが実施し、地元金融機関からの融資で資金調達。
- 日陰が生じることで真夏の収穫作業が楽になったほか、乾燥が防げたことに よって散水作業が楽になった。ただし、発電設備の支柱によって除草時の作 業が煩雑になった面もあった。
- 株式会社Iが得る年間の売電収入は200万円。近所 の農家からは一緒に取り組みたいとの声もある。
- 「若者が安定した収入を得ながら農業で食べていける姿を作りたい」との考 えを持っている。
収支の流れ
【G農園】 固定価格買取制度の期間である 20年間の収支試算 ※発電事業収入 |
収入3,600万円 支出2,000万円 所得発電事業1,600万円
農家民宿経営:95万円/年 農業収入:203万円/年 |
【株式会社I】 |
地域資源を活用した地域活性化を目的に、営農者が設立。 営農者自身が代表取締役。発電事業に詳しい者、事業戦略担当他計4名で構成。 売電収入:200万円/年 売電単価36円/kW 返済:115万円/年 (×17年) |
今後の展望(H38年度) | 農業収入:約500万円/年 +約300万円 ※ブルーベリーの生長による収量増加を見込み栽培の収入を約400万円にすることを目指す (農業収入 全体で約300万円増(対H28年度)) 売電収入:180万円/年 ※太陽光発電パネルの機能低下により年1%ずつ減収 |
特記事項 | 株式会社Iにて売電収入をもとに、同取組の横展開や経営強化につなげる。 ※荒廃農地を活用して営農型太陽光発電を行い、ブルーベリーの植栽を計画中 |
観光客が来訪している様子
発電施設の外観
発電施設の外観
太陽光発電を設置する場所の制約がほとんどなくなる
太陽光発電を行うには日射条件の良い広い場所を必要としますが、ソーラーシェアリングは日本に存在する471万ヘクタールの農用地を利用できるため、<実質的に設置場所の制約がほとんどなくなると言えます。
ソーラーシェアリングを提唱しているCHO技術研究所の長島彬所長によると、日本に存在する471万ヘクタールの農用地のうち、300万ヘクタールにソーラーシェアリングを導入すれば、国内の総発電量すべてを賄うことも可能とのことです。
太陽光発電は天候などによって日射量が不安定になってしまう太陽エネルギーを利用するため、安定的な電力源とはなりえないと言われますが、CHO技術研究所の長島彬所長によると、広大な面積でソーラーシェアリングを実施すれば、一部の地域が曇りでも全体ではある程度安定した日射量を得られるため、安定的な電力源にすることも十分可能であるとのことです。
ソーラーシェアリング導入で変わること
ソーラーシェアリングの条件
農業と共存できる太陽光発電システムとして注目を集めているソーラーシェアリングですが、農地での利用許可を得るためにはいくつかの条件があります。まず農地転用許可を得た後に、太陽光パネルを設営するための支柱に対しても一時転用の許可を取らなければなりません。その一時転用許可については下記の様に定められています。
- 1. 発電システムを設置した農地における営農に支障をきたさないことを前提とし、支柱は発電システムを支えるためのものとして利用されること。
- 2. 発電システムを設置した農地において生産された農作物に関する状況を年に1回報告すること。
- 3. 営農の継続が怪しくなった場合には、迅速に改善措置をとること。
- 4. また改善措置を取る場合や、発電事業を廃止する場合には素早く報告すること。
- 5. 営農が行われていない場合や発電事業を廃止する場合には、支柱を含む発電システムを速やかに撤去し、農地として利用することができる状態に回復すること。
原則、農地を一時的に転用する期間は3年を上限としています。しかし、太陽光発電の場合は向こう十数年継続して設営されますので、期間満了で無効となった一時転用許可は満了前に再申請することでソーラーシェアリングを継続可能となっています。
しかし、下記の様に営農自体に影響が出てしまっては一時転用許可が下りない場合があります。太陽光発電の発電量確保も重要ですが、共存を維持するためにも適切な作物の生育状況を常に確保するようにしましょう。
- 1. 営農が行われない場合
- 2. 農地における単収が、同じ年の地域の平均的な単収と比較しておおむね2割以上減少している場合
- 3. 農地において生産された農作物の品質に、著しい劣化が生じていると認められる場合
- 4. 農作業に必要な機械等を効率的に利用することが困難であると認められる場合
これまで、ソーラーシェアリングは第2種・第3種農地と呼ばれる条件の土地であれば農地転用の問題は発生していませんが、第1種以上の農地においては転用は一切認められておりませんでした。しかし、農業と共存するソーラーシェアリングの実績が認められ、平成25年3月31日付で農林水産省によって「農用地区域内農地」「甲種農地」および「第1種農地」についてもソーラーシェアリングが条件付きで認められることになりました。
このように、ソーラーシェアリングに関わる国家の動きは活発になってきています。
営農型太陽光発電と相性の良い農作物
それでは、ソーラーシェアリングに適した農作物はどのようなものでしょうか?
植物は光が当たることで成長しますが、実はほとんどの植物にはその光の量が一定の範囲を超えた場合は、それ以上成長しないという特長があります。それを「光飽和点」と呼びます。光飽和点を持っている植物は「C3型植物」と呼ばれていますが、このC3型植物は下記の通りとなっています。
作物名 | 光飽和点(klx) |
---|---|
トウモロコシ | なし |
- ※ 他にもサトウキビ、アワ、キビ、ヒエなど
作物名 | 光飽和点(klx) |
---|---|
スイカ | 80 |
トマト | 70 |
作物名 | 光飽和点(klx) |
---|---|
きゅうり | 40~55 |
稲 | 40~50 |
ナス | 40 |
えんどう | 40 |
ブドウ(巨峰) | 40 |
桃(白鳳) | 40 |
梨(幸水) | 40 |
いちじく | 40 |
- ※ 他にもピーマン、サツマイモ、オクラ、かぼちゃ、さといも、大根、人参、牛蒡など
作物名 | 光飽和点(klx) |
---|---|
レタス | 25 |
ミツバ | 20 |
シンビジウム | 10 |
プリムラ | 10 |
シクラメン | 15 |
アザレア | 5 |
- ※ 他にも、苺、白菜、キャベツ、ワラビ、フキ、ミョウガ、キノコ類など
ちなみに、光飽和点のない植物はC4型と呼ばれています。このC4型植物はトウモロコシやサトウキビなどの植物が該当しますが、太陽に当たれば当たるほど成長していくため、このような作物とソーラーシェアリングは相性が良くないと言われています。
また、トマトやスイカといった光飽和点が高い作物も、ソーラーシェアリングを行うにあたりリスクが高くなってしまいますので注意が必要です。
一例としまして、静岡県のある農家ではサトイモと稲をパネルの下で生育させることに成功しております。そこでは、パネルの間隔を通常より倍以上に広げて設置し、また回転式架台を採用することによって天候に合わせて自由に調整することが可能となっています。 さらに、強すぎる直射日光によって葉が日焼けすることを防ぐ効果もありますので、作物の種類によっては非常に効率的な営農型太陽光発電が実現可能となっています。